9月5日 ちいさなぬま

絵本を出版したい人なんて地球上に10億人くらいいるけど、実際に出版できる人なんていったいどれほどよ。しかも、2冊目の絵本を出版できるなんてさ。

だってしかも、絵だけじゃなくて話も自分で書いてるだなんて、親指の爪と人差し指の爪でつまめるくらいの人数しかいませんよ。


そんな、思いの強いコトリさんの2冊目の絵本「ちいさなぬま」ですよ。























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まず、「ぬま」が主人公なんですよ。
沼。

けして顔とか手足とかくっつけて擬人化してるわけではないのに、微妙な色や模様の変化でぬまの心情が描かれています。

 本の帯にあらすじが書いてありますので、そのあらすじで書かれているところまでのストーリーは明かしていいよね。


森の中でひとりぼっちでさみしい思いをしているぬま。
ある日、蝶がやってきて「あの……こんにちは」と話しかける。
なんとぬまがだれかと喋ったのはこれが初めて。

ちょっとばかし交流して「さて」と帰ろうとする蝶を引き止めるためにぬまは蝶を飲み込んでしまいます。
そのあとも複数の鳥類や哺乳類を飲み込んでいきます。
何度やってもさみしくてさみしくて毎度毎度飲み込んでしまいます。

そして、ある日女の子がやってきて………。



あらすじでの紹介はここまで〜。





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ぼくはこれを読んで、
「さみしい」っていう気持ちは毒にも薬にもなるものなんだなと思いました。

さみしさは悪意を生むことがあるけど、逆にさみしさがあるからこそ人と人とがつながりやすくもなるんだよな〜と。


ぬまは女の子に出会ったあと、それまでとは違う行動を起こします。
たぶんぬまは、無自覚的にその行動を起こしていると思いますが、実はそれこそがさみしさから救われる唯一であり簡単でむずかしい行為でした。

おっと喋りすぎた。



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自分のさみしさを救うのはとても面倒で覚悟のいることだと思います。
同様に、他人のさみしさを救うのもとても面倒で覚悟のいること。

自分がぬまになったり、蝶になったり、女の子になったり。
生きながらコロコロ立場は変わると思う。

絵本の中でのぬまは基本的にただの楕円形で描かれているので、人の心そのものの形のようにも見えてくる。



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動物たちを飲み込んでいくぬまが、それがむなしくみじめな行為であると当初気づいていない点がとてもいいと思いました。
飲み込んだ直後のぬまは完全な無感情。
喜びもなければ後悔も罪悪感もない。
それがすごくよかったです。

オチも好き。これぞ人間の本。地球の本。



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後半、散文のようになってしました。失礼。


こんな特異なストーリーをストレートに表現して、絵本として出版できるなんて大尊敬。
すごい。すごい。